「海外オペレーションと今後の語学学習の考え方」3/7

私どもの本社はキャッシュリッチな会社でしたが、こと現地法人に対しては本当に冷たく当たられたのと、当時は外貨を送金するのにいろいろな規制があり、やたらに援助をしてもらえない時代でした。貴重な外貨ということで送金するのに管理当局からさんざん怒られて、やっと500万円くらいの資金を送るありさまです。

当時、優秀なアメリカ人のマネージャーを雇うのに年収6万ドルが必要でした。いまの1ドルが108円の時代ではありません。360円はもうありませんでしたが、それでも300円前後でした。(確かブレトンウッズ会議でドル・円が少し変わったと思います)
つまり年収1800万円用意すれば優秀なやりての営業マネージャーを雇えますが、いかんせん会社に予算がない。海外送金も頻繁にできない。

この中でどうするか。自分でやるしかありません。日本の部品メーカーの知り合いに頼み込み、やっとの思いでアポをある人にとりました。初めて顔を出したのは、大手自動車メーカーのV6エンジングループです。

今のようにPPTなどはありません。出てきたエンジニアは忙しそうにしていましたが、15分やるからどうしたいのか言ってみろ、これが私の売り込みの始まりでした。5分で自己紹介、5分で会社の紹介、そして残りの5分でV-6エンジングループに何ができるか。果たして15分は簡単に過ぎ去りました。

自分でもはっきりと分かりました。相手の顔を見てこりゃだめだと。
あんまり私が情けなさそうな顔をしたのだと思います。彼は今俺のところには君が売り込もうとしているニーズは全くないが、ひょっとしてと忙しい中電話をとって「今から日本から来た若者が行くから、ちょっと時間を空けとってくれ」などの会話です。

海外オペレーションと今後の語学学習の考え方

次の場所で同じことの繰り返しです。次のエンジニアがなんと15分のプレゼンのあとに宿題をくれたのです。いろいろな質問と宿題の山です。そして次回のアポまでOKでした。
もう嬉しくて、1泊19ドル50セントの安宿に帰りました。そこは部屋に冷蔵庫もありません。缶ビールを買ってきて冷やすところがないのですが、よく考えると戸を開ければマイナス20度くらいです。外にビールを出しておけば、あっという間に冷えてきます。そのうちに外のビールを忘れて酔って寝てしまいます。ビールは車の中で破裂。アルコールのにおいがぷんぷんです。レンタカー会社にばれないようにさっと返して、LA行きの飛行機に乗った記憶もあります。

その間時間が経ち、オハイオの会社の代表となり、それでもしつこくBig3を追っかけていました。
結局大手自動車メーカーで最初に決まったのが、キャデラックのノースターエンジンV6。4.3Lの軽くてハイパワーエンジンの採用です。今は知りませんが、当時の中西部には人の好い典型的なアメリカ人がたくさんいました。自動車の燃料タンクの口にまだ鍵のついていない車がありました。そして一生懸命な人になんとかチャンスをあげようとする気概をもった人がたくさんいました。今のトランプ政権はどうしたんだろうと思います。
BOCグループ※1、CPCグループ※2とどんどん仕事が舞い込みます。帰国時期を逃し、とうとう17年もアメリカに滞在することになりました。

※1 大きいエンジン車のビュイック、オールズモビル、キャデラック
※2 小さいエンジン車のシボレー、ポンチアック、カナダグループ


「海外オペレーションと今後の語学学習の考え方」より抜粋

清水 大輝

筆者略歴

  • 昭和47年 工学部機械工学科卒業
  • 三井系の機械メーカーに就職
  • 海外製鉄所向けのプラント
    見積もり設計の国際入札の窓口を5年経験
  • ケミカルメーカー
    国内営業を経験後、フィリピン・マニラに駐在事務所を開設
  • シンガポール駐在を経て米国ロスアンゼルスに赴任
  • 米国でデトロイト、アトランタの事業所を開設
  • LAとオハイオに工場を建設
  • ノースアメリカの代表となる
  • 大手自動車メーカーとの取引を10年かけて開始

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